「まさか、こんなところで再会するとはね」
「ねぇ、これって運命だと思わない?」
彼女の嗜虐的な笑みはあの頃と変わらなかった。そして、この再開が僕の運命を変えるものとなった。
結婚して3年。世間ではまだ新婚と呼ぶのかもしれないけれど、僕は既に満たされないものを感じていた。
それは決して妻が悪いわけではない。妻は明るく人当たりもいいし、料理も美味い。女性をランク付けするのは失礼だとは思うけれど、容姿だって中の上という感じで独身時代はそれなりにモテたようだ。共通の友人、知人に結婚を報告した時には随分羨ましがられた。
もちろん僕だって妻の人間的な魅力に惹かれて結婚したわけなので、結婚生活そのものにに不満はない。
じゃあ何に満たされないものを感じているのかというと、妻の魅力が僕の性癖に突き刺さらない。女性として妻として素敵な存在だとは思うけれど、性的な魅力が感じられないのだ。
セックスは人並みにしているとは思うけれどただ肉体的に気持ちいいというだけで心からの興奮や満たされる感情が湧かなかった。そしてそれは僕自身が普通の女性では満足できない性癖だと理解していた。
まあ、端的に言えば他人から羨ましがられるような素敵な奧さんをもらったのに、自分の性癖が異常で性生活が満たされず欲求不満を感じている、という事だ。
普通ならそれでも理性で我慢するのだろうけれど、人間の出来ていない僕には無理だった。
僕は満たされない欲求を満たしてくれる相手を求めて出会い系サイトを利用するようになった。
理想は抜群にエロい女性。性欲が強くて男を性欲のはけ口としか考えていないような女性に玩具のように扱われるのが好きだった。できれば体臭がちょっとある方が興奮する。
出会い系にはそんな性欲旺盛な女性が沢山いたので相手を見つけるのにさほど苦労はなかった。
月に1,2人知り合って関係を持つ。女性達の言いなりになって性奉仕をする。こうやって、結婚生活の中では得られないものを満たしていた。
そんな日々が半年ほど続いた頃、運命の日がやってきたのだった。
いつものように出会い系サイトで知り合った女性と約束を取り付け会う事に。
「マリさんですか?」
待ち合わせ場所でそれらしい女性に声をかけると、彼女は「はい」と返事をした。けれどその直後、目を見開き驚きの表情に変わった。
「…もしかして伊藤?」
「えっ…?」
思いも寄らない事に彼女は僕の本名を口にした。名乗ってもいない本名で呼ばれ背筋の凍る思いがしたと同時に過去の知り合いを思い返してみる。そして間もなく目の前の存在と記憶が一致した。
「吉川…?」
吉川マリコ、高校の同級生だった。女性はメイクや髪型で印象が変わるのですぐには分からなかったけれど確かに当時の面影は残っていた。
「高校卒業以来だから10年ぶりくらいだね」
「そうだね」
「元気だった?」
「うん、まあ」
マリコは久しぶりの再会を楽しむように話しかけてくる。けれど僕はそんな気分にはなれなかった。
僕は事前に既婚者である事を伝えていたからだ。まりこがもし他の同級生に話したら?それが回り回って万が一妻の耳に届くような事があったら?と考えると、後ろめたい気持ちでいっぱいになった。
そして、マリコとの再会を全く喜べないのには、もう一つ理由があった。
「ねぇ、あの時の事、覚えてる?」
「…」
「忘れちゃった?」
「…」
「マナミの椅子を舐めながら勃起してたの、かなり衝撃だったんだけどなー」
僕には誰にも言えない黒歴史があった。そしてその秘密を唯一握っていたのがマリコだったのだ。
「そんな伊藤とまさか、こんなところで再会するとはね」
「ねぇ、これって運命だと思わない?」
と囁くマリコの嗜虐的な笑みと口調に僕はまた、彼女に弱みを握られた事を確信した。
本当なら話もそこそこに帰りたかったけれど、マリコはそれを許さなかった。
「積もる話もあるし、二人きりになれる所に行こっか」
そう言われて向かったのはラブホテル。一体どんな話があるのか、何をされるのか、気が気ではなかった。
部屋に入るとマリコはベッドに腰掛けそのまま横になった。僕はその傍にあった椅子に座った。
「そういえばさぁ、なんであの時マナミの椅子を舐めてたの?」
マリコは早速黒歴史である話を持ち出した。当時の事はあまり思い出したくはないけれど、鮮明に覚えていた。
その日は6限目が体育でマラソンの授業だった。そのせいだろうか、授業の後は汗臭い匂いが部屋に漂っていた。その中でもマナミの体臭はひときわ強く感じた。たまたま隣の席だったというのもあったとは思うけれど、酸っぱさと野生の香りが混じったような匂いだった。そして、僕はその匂いに興奮したのだ。
帰りのホームルームではチンコが立ちっぱなしだった。それも終わり、クラスメートが次々と教室を後にする中、僕はマナミの椅子を舐めたいという衝動に駆られたのだ。椅子に染みこんでいるかもしれない残り香を味わいたい、そんな気持ちだった。
教室は最後に出る生徒が鍵閉めをするルールだったから自習をするフリをして一人になるのを待った。
数十分後、ようやく一人になったところで事に及んだ。
匂いなんてほとんどしなかったはずだけど、椅子を舐めているという背徳感もあって夢中で舐めてしまった。少し昂ぶりが治まっていた股間も再びビンビンになった。
その時だった、教室の入り口が開いたのは。扉は閉めていたものの、その時点で鍵までは閉めていなかったのだ。慌てて振り返ったところで目が合ったのがマリコだった。
“何やってんの?”
“え…いや…”
“今椅子舐めてなかった?”
“あっ…あ…”
“っていうか…”
マリコは僕の股間を見て全てを察したような表情をした。もう、ごまかしようがなかった。
と、完全に記憶が蘇ったところで、僕も疑問に感じていた事を思い出した。
「お前こそどうしてあれから何度もマナミの椅子を舐めさせたり射精させたんだ?」
クラスメートの椅子を舐めるという変態行為をマリコに目撃された僕だったけれど、実はそれだけでは終わらなかった。
その日を境にマリコは僕に放課後、教室に残るように言いつけた。僕は自分の変態行為を見られている弱みがあるので従わないわけにはいかなかったけれど、そこで待ち受けていたのは意外なものだった。
“この前みたいにまたマナミの椅子、舐めてよ”
“今回はオナニーもしながらね”
もしかして金銭なんかを要求されるんじゃないかと思っていた僕は少し拍子抜けしたのを覚えている。とはいえ、人前でするべき事ではないのも分かっているから、嬉々として従うなんて事は出来なかったけれど。
そしてこんな命令は卒業するまで定期的に続いた。
「あー…私、マナミの事あんまり好きじゃなかったんだよね。変態に舐められた椅子に何も知らずに座るのを見るのが楽しかったって感じかな。オナニーは単純にどうやるのか興味があっただけ」
「っていうか、質問に質問で返さないでよ。なんでマナミの椅子舐めてたの?」
と再度聞かれて、僕は渋々辿った記憶の通り答えた。
「ふーん、やっぱ変態だったんだね。汗臭い匂いに興奮して椅子を舐めるとか気持ち悪すぎるわ」
マリコは軽蔑の言葉を僕に投げかけたけれど、その口調は蔑みながらも僕の反応を楽しんでいるようだった。
「でもさぁ、それなら今も舐めるのは好きなの?」
「えっ?」
急に話の矛先が変わったようで、僕は答えに窮した。
「折角なら椅子舐めが得意な伊藤に舐めてもらおうかな。汗臭い匂いに興奮するならこのままでもいいよね」
マリコは僕の答えなど関係なしに話を進めていく。一方的にスカートを下ろし、パンストと下着を脱ぐとベッドの上で僕を誘うように開脚した。
「ほら、早く」
その気にはなれずソファに座ったままの僕にマリコは急かすように催促する。僕の意思などお構いなしといった感じで、拒否権はないのだと思い知らされる。
僕はベッドの上で足を広げ誘うマリコの股の間に顔を埋めた。
ツンとしたアンモニア臭と女性特有の生々しい香りが鼻腔を掠める。僕は淫裂を下から上へと舐め上げ舌での愛撫を始めた。
「んっ…んふっ…」
マリコは時折、吐息混じりに喘ぎながら腰をくねらせる。もっと舐めろと言わんばかりに僕の顔に押しつけるように。
興奮で体温が上がるのか、マリコの股から放たれる体臭は濃厚さを増していた。そしてそれが僕の官能をくすぐる。いつの間にか僕は夢中で舐め貪ってしまった。
「あぁ…もうイキそう…」